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岡山地方裁判所 昭和40年(わ)846号 判決

被告人 細川和興

主文

被告人を懲役二年に処する。

未決勾留日数中四〇日を右刑に算入する。

押収のあい口一振(昭和四〇年押第一四一号の二)を没収する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は

第一常習として

(一)  昭和四〇年一〇月三一日午後九時過ごろ、和気郡吉永町大字吉永中四五三番地国鉄吉永駅前広場において、石野学(当時二四年)の腹部を手拳で突いたうえ、襟首をつかんでその場に転倒させて同人の顔面を土足で踏みつけ、更に割木(昭和四〇年押第一四一号の一のうちの一本)をもつて同人の頭部及び背部等を殴打し、よつて同人に対し、全治までに約一〇日間を要する左側頭部皮下血腫及び左背部打撲症等の傷害を負わせ

(二)  昭和四一年一月一七日午後九時ごろから九時三〇分ごろにかけて三回にわたり、岡山市奉還町所在の公衆電話等を利用して同市藤崎七〇五番地光亦伊久次方へ電話し、同人及びその妻光亦住子に対し、「一〇人ばあ、行つてお前の息子をやつてやる。息子を殺して川に浮かしてもよいか。家に火をつけてやる」等と申し向け、もつて光亦登及び光亦伊久次等の生命身体財産に危害を加えるべき旨を告知して脅迫し

第二青山勝利と共謀のうえ、同年一月一六日午後七時ごろ、前記光亦伊久次方において、同人及び光亦住子に対し「息子を出せ、おらんことはなかろうが。家さがしをしようか。お前方の息子が靴を盗んで帰つとる。もう許せん。どねえにしてくれりやあ。靴代五、〇〇〇円と車代二、〇〇〇円出せ」等と怒号し、土足で上り段を蹴飛ばす等の気勢を示し、もしその要求に応じないときは右光亦伊久次らの身体財産に危害を加えかねない気勢を示して同人を畏怖させ、よつて即時同所において同人から現金七、〇〇〇円の交付をうけてこれを喝取し

第三法定の除外事由がないのに、同年一月一七日午後一一時一五分頃、同市岡山駅西口附近を走行中の乗用車内

において、刃渡り一七、二センチメートルのあい口一振(前同押号の二)を不法に所持し

たもので、被告人は判示第一、(一)の犯行当時飲酒酩酊して心神耗弱の状態にあつたものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(弁護人の主張に対する判断)

弁護人は、判示第一(二)、第二の各犯行当時被告人は飲酒による病的酩酊のため心神耗弱の状態にあつたと主張する。

右各犯行当時被告人が飲酒していたことは、被告人の昭和四一年一月二二日付、二三日付各司法警察員に対する供述調書、白神潔、青山勝利の司法警察員に対する各供述調書等より明らかに認めることができるけれども、これら証拠によれば、当時被告人は判示第一、(一)の犯行当時程には飲酒していなかつたのみならず、犯行当時の情景を逐一詳細に記憶しており、逆行性健忘等病的酩酊状態の存在を推知せしめるような状況は全くないことが認められれるのであつて、判示第一(二)、第二の各犯行時においては被告人は事理弁識能力に欠けるところはなかつたと認められるから、弁護人の右主張は採用することができない。

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は包括して暴力行為等処罰に関する法律一条の三前段に、判示第二の所為は刑法六〇条、二四九条一項に、判示第三の所為は銃砲刀剣類所持等取締法三条一項、三一条の三の一号に各該当するが、判示第一の所為には、常習として犯された傷害及び脅迫の各一個の所為が含まれており、しかも結局重い傷害の所為の刑に依り一罪として処断されることとなるところ、その傷害の所為が心神耗弱者の行為であり、かつ常習傷害の刑につき耗弱減軽するもなお常習脅迫の刑よりは重いのであるから、かかる場合においては、包括一罪の一部をなす常習脅迫の所為について耗弱減軽事由が存しないけれどもなお常習傷害の刑につき耗弱減軽をなしうるものと解されるから、判示第一の所為については心神耗弱者の行為として、刑法三九条二項、六八条三号により法律上の減軽をし、判示第三の罪については所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により最も重い判示第二の罪の刑(但し下限は判示第一の罪の刑のそれによる。)に法定の加重をした刑期範囲内で被告人を懲役二年に処し、刑法二一条により未決勾留日数中四〇日を右刑に算入し、押収のあい口一振(昭和四〇年押第一四一号の二)は判示第三の犯罪行為の組成物件で被告人以外のものに属しないから刑法一九条一項一号、二項によりこれを没収し、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項本文により被告人の負担とする。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 谷口貞)

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